領域代表あいさつ

学術変革領域研究(A)令和4年度~令和8年度「光の極限性能を用いたフォトニックコンピューティングの創成」の発足にあたって

領域代表
早稲田大学理工学術院
基幹理工学部電子物理システム学科
川西 哲也

川西哲也

前領域代表(2023年9月まで)
元東京大学教授
成瀬 誠

成瀬 誠

光は、情報通信社会を支える不可欠な基盤となっていますが、通信や計測だけでなく、コンピューティングにまでその役割が期待されています。情報通信の物量の爆発的な拡大やAIに見られるコンピューティング需要の急増と高度化、グリーントランスフォーメーションに見られる環境性能の潮流などがあり、新たな物理系を活用するコンピューティングが活発に研究され、そのなかで、光とコンピューティングの関わり-フォトニックコンピューティング-が改めて探求されています。光科学や光技術そのものが長足の進化を遂げ、他方で、情報科学も飛躍的進化を遂げ、その交差点に、大きな可能性が生じているとも言えます。

本研究領域では、光とフォトニクスの極限性能という視点から、光とコンピューティングの新たな学術を創成します。今、フォトニックコンピューティングの最前線は、極めてダイナミックに進展しています。AIやBeyond 5Gに見られる応用との強い繋がりを持った光アクセラレーターの研究が発展する一方で、光の多様な特徴ある性質を、情報処理と結節する新たな基礎研究が次々に現れています。このような先端研究の多様性を高いレベルで実現すると同時に、「光とコンピューティング」という研究領域として、領域全体が一丸となった一体性を、本研究領域は追求したいと思います。

本研究領域が基軸とするコンセプトは光の極限性能-Ultimate Nature of Light-です。ここには、①光の限界性能(Physical Limit)のコンピューティングへの活用、②未踏の潜在能力(Potential Capability)の開拓、③光の利活用を阻む構造的限界(Architectural Limit)の克服という3個の意味がありますが、これは、我が国における光とコンピューティングの研究において培われてきた、メカニズム・デバイス・アーキテクチャの具体的な研究の先導性を生かすとともに、公募研究を含め、研究の一層の拡大と充実を目指したコンセプトでもあります。

このような研究の推進には、フォトニックコンピューティング研究において、既存の研究に囚われず、新たな視点・着想・技術を開拓し、異分野連携を促進する必要があります。実際、フォトニックコンピューティングという分野は、材料・物理・デバイス・メカニズム・アーキテクチャ・アルゴリズム・アプリケーションなどの広範な階層の視点の融合によって拓かれてきた領域と言えます。研究者間の連携に特に力を入れて研究を進めていく予定です。

光コンピューティングの研究は、1980年代前後に極めて活発に行われましたが、当時の研究は、その後急速に衰退したと評されることがありました。しかし、現実には、現在の最先端の研究において、1980年代の研究の考え方や着想は、40年の時を超え、数多く引用されるようになり、むしろ今日において当時の研究の再発見・再評価に至っていると個人的には考えています。先人の努力なくして、今日の発展は有り得ないように思われます。このことは、現在のフォトニックコンピューティングの研究においても、光の極限性能という可能性を、この時代において新たに徹底的に追求することの重要性を非常に強く示唆しているように思います。

本領域研究の発展には、計画研究、公募研究に参加いただく多様な研究者の協力が不可欠です。特に、公募研究に理学・工学・情報学などの様々な分野の研究者が参加し、「光とコンピューティング」、「光と情報」という学術分野が、本邦において広く発展し共有されることを期待しています。また、オープンセミナーやスクールなどのアウトリーチ活動や、諸外国の先端研究者を巻き込んだシンポジウムなども計画していく予定です。本研究領域の発展へのお力添えをどうかよろしくお願いいたします。